Case Study|Special|Crypto Crime

暗号資産の不正送金を追跡し、
被害額の約70%を回収に導いた話

業種:暗号資産関連事業 規模:従業員 約60名 期間:初動72h → 全体8週間
01

相談前の状況

国内で暗号資産関連サービスを運営する企業。カストディアルウォレットで顧客資産を管理しており、日次の送金処理は数百件規模でした。セキュリティ体制はマルチシグとホットウォレット / コールドウォレットの分離を実施済みでしたが、社内承認フローは人的な確認が中心でした。

ある朝、オペレーション担当者が定時の残高確認を行ったところ、ホットウォレットの残高が前日比で大幅に減少していることに気付きました。送金履歴を確認すると、深夜帯に複数の未知のアドレスへ大口の送金が実行されていました。

分からなかったこと:誰が送金を承認したのか、秘密鍵がどのように漏洩したのか、送金先のアドレスが攻撃者のものなのか内部犯行なのか、そして——まだ被害が続いているのかどうか。

02

このケースが難しかった理由

時間との戦いが最大の制約でした。ブロックチェーン上のトランザクションは不可逆ですが、送金先がまだ中央集権型の取引所に資産を移動していない場合、凍結要請によって回収の可能性が残ります。しかし、攻撃者がミキサーやブリッジを通じて資金を分散させると、追跡と回収の難易度は飛躍的に上がります。

次に、法的な枠組みが複雑でした。海外の取引所に対する凍結要請は、その国の法制度に準拠する必要があります。また、国内の法執行機関に被害届を出す際にも、ブロックチェーン上の証拠を「法的に有効な形式」で整理する必要がありました。

さらに、内部犯行の可能性が排除できない段階では、社内の誰に情報を共有するかも慎重に判断しなければなりませんでした。

03

open brain への相談

同社の法務顧問を通じて、発覚当日の午前中にopen brainに連絡がありました。NDAは即日で締結し、2時間後にはオンラインでの緊急ヒアリングを開始。

すぐに決めたこと:ホットウォレットからコールドウォレットへの全資産退避、送金APIキーの全無効化、そして不正送金先アドレスのオンチェーン追跡の即時着手。

あえて決めなかったこと:「内部犯行か外部攻撃か」の仮説固定。証拠が揃う前に犯行主体を決めつけると、調査のバイアスにつながるためです。両方の可能性を等しく追う方針を取りました。

最も重要だったのは、「回収可能な時間」がどれだけ残っているかの見積もりでした。攻撃者が資金を分散させるまでの猶予を逆算し、72時間を最初の勝負どころと設定しました。
04

対応の流れ

Day 0 / 10:00緊急封じ込め
ホットウォレットの全資産をコールドウォレットに退避。送金APIキーの全無効化。インフラチームと連携して、サーバーアクセスログの即時保全を実施。この時点で「出血を止める」ことに全リソースを集中しました。
Day 0 / 14:00オンチェーン追跡開始
不正送金先のアドレスから、資金の移動経路を追跡。複数のホップを経て、一部が大手海外取引所のデポジットアドレスに着金していることを特定。この取引所に対して、凍結要請の準備を開始しました。
Day 1-3凍結要請・法執行連携
海外取引所2社に対し、コンプライアンス部門への凍結要請書を送付。同時に、国内の法執行機関への被害届の準備を開始。オンチェーン上の証拠(トランザクションハッシュ、アドレスクラスタリング、タイムスタンプ)を法的提出用のフォーマットで整理しました。
Day 4-14侵入経路の特定
サーバーログ、認証ログ、APIアクセスログの詳細分析を実施。結果、社内の特定の端末から深夜帯にAPIキーが取得されていたことが判明。内部犯行ではなく、フィッシングメールによって端末が侵害され、認証情報が窃取されたことが原因と特定しました。
Day 15-56資金回収・再発防止
海外取引所2社からの凍結完了を確認。法務チームと連携して、返還手続きを進行。最終的に被害額の約70%の回収に成功。並行して、マルチシグ承認フローの再設計、フィッシング対策の従業員教育、端末セキュリティの強化を実施しました。
05

重要だった判断ポイント

Decision 01
凍結要請を出すタイミング——情報が不完全でも動くか、全容判明を待つか
72時間以内に動かなければ、資金がミキサーに流れるリスクがありました。オンチェーン追跡で「送金先が特定の取引所のデポジットアドレスである」という確度が一定以上に達した時点で、全容判明を待たずに凍結要請を出す判断をしました。結果的に、このスピードが回収率の高さに直結しました。
Decision 02
社内への情報共有範囲をどう制限するか
内部犯行の可能性が排除できない段階では、情報共有範囲を経営陣と法務の3名に限定しました。調査対象となりうる人物に情報が漏れると、証拠隠滅のリスクがあるためです。最終的に内部犯行ではないと判明した後に、全社への説明を実施しました。
Decision 03
法執行機関への届出と、取引所への凍結要請を並行するか順次進めるか
法執行機関への相談は時間がかかります。一方、取引所への凍結要請は民間ベースで直接行えます。両方を並行して進める判断をしました。法執行機関には「捜査協力の依頼」として情報を提供しつつ、取引所へはコンプライアンス部門に直接アプローチ。この並行処理が、回収のスピードを大幅に短縮しました。
06

提供した成果物

オンチェーン追跡レポート(資金移動の全経路・可視化図)
海外取引所向け凍結要請書(英文・法務レビュー済み)
法執行機関提出用の証拠資料一式
侵入経路調査報告書(フィッシング起点の攻撃チェーン)
経営層向けエグゼクティブサマリー
マルチシグ承認フロー再設計書
端末セキュリティ強化ガイドライン
フィッシング対策の従業員教育プログラム
07

結果と変化

Technical
侵入経路(フィッシング → 端末侵害 → APIキー窃取)を完全に特定。不正送金先の全アドレスと資金移動経路を可視化。海外取引所2社での凍結を実現し、被害額の約70%の返還手続きが完了。
Business
顧客資産の毀損は、回収分を考慮すると当初想定の3分の1以下に抑制。規制当局への報告も、整備された証拠資料により「適切な対応を行った」との評価。事業継続への影響は最小限に留まりました。
Mindset
経営陣が「ブロックチェーンだから追えない」という先入観を持っていたのが、「正しい手順を踏めば追跡・回収できる」という認識に変わったことが最も大きな変化でした。その後、インシデント対応手順の定期的な訓練と、四半期ごとのセキュリティ監査を自主的に開始されています。
08

この事例から言えること

暗号資産の不正送金対応で最も重要なのは、「時間の使い方」です。ブロックチェーンの不可逆性は、攻撃者にとっても被害者にとっても同じです。資金が中央集権型の取引所に滞留している間が「回収の窓」であり、この窓が閉じる前に動けるかどうかが結果を分けます。

open brain が大切にしているのは、「全容が分かるのを待たずに、動ける部分から動く」こと。完璧な調査報告を作ってから行動するのでは遅い。不完全な情報の中でも、「今の時点で確度が高い部分」を見極め、そこから着手する。この判断力が、回収率に直結します。

また、オンチェーン追跡は技術だけでは完結しません。取引所のコンプライアンス部門との交渉、法執行機関との連携、法務チームとの協働——技術と法務と交渉力の三位一体が求められます。

09

同じ状況の方へ

不正送金に気づいたら、まず「出血を止める」こと。ウォレットの隔離とキーの無効化を最優先にしてください。その次に、できるだけ早く専門チームに連絡すること。時間が経つほど、回収の可能性は下がります。

「どこまで追えるか分からない」状態でも大丈夫です。オンチェーン上にデータは残っています。追跡の可否と回収の見込みは、初回のヒアリングで概算を出せます。

NDA対応可。緊急時は24時間体制で一次受付を行っています。

無料相談に申し込む
守秘義務契約(NDA)を締結のうえ、状況に合わせた最適な対応をご提案します。
無料相談に申し込む
緊急時は24h一次受付対応